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法務部の転職
更新日: 2023/01/12
公開日: 2023/01/12

企業法務で評価される資格8選&資格以外のスキルアップ方法を解説

企業の法務職としてレベルアップしたい、あるいは企業の法務部門へ転職したい場合、資格がどの程度有効なのか気になるはずです。とくに法務は向上心が高く勉強熱心な方が多い職種なので、資格に興味がある方は少なくないでしょう。そこでこの記事では、企業法務に役立つ資格や検定を紹介します。難易度や学べる内容、評価される可能性などを確認してみましょう。

【超難関~難関】企業法務で評価されやすい士業資格4選

企業法務で評価される可能性のある士業資格は、「弁護士」「弁理士」「司法書士」「行政書士」の4つです。資格の難易度は超難関~難関です。企業法務で評価される可能性については、資格によって違いがあります。

(1)弁護士

まずは弁護士資格(司法試験)です。難易度は超難関、今回紹介する資格だけでなくすべての資格の中で最も難しい資格といっても過言ではありません。

最も難しいが最も評価されやすい資格

司法試験を受けるには、合格率3~4%の司法試験予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要があります。そのうえで、1年にもおよぶ司法修習を修了し、司法修習生考試に合格しなければなりません。何年もかけて合格を勝ち取る人がいる一方で、努力を続けても合格できない人も大勢いる超難関資格です。それだけに企業法務に関する資格の中で最も評価されやすい資格といえるでしょう。

企業内弁護士は人気のキャリア

弁護士というとひと昔前は法律事務所へ就職して独立開業するのが王道のキャリアでした。しかし司法制度改革により弁護士数が増加したのにともない、一般企業で働く弁護士が増加しました。コンプライアンスやコーポレートガバナンスの強化を図る企業が増える中で、内部から自社の成長を後押しできる企業内弁護士は人気のキャリアとなっています。

企業法務系法律事務所への転職も可能

弁護士が企業法務に関わるなら、企業の外部から専門家として支援する方法もあります。四大法律事務所をはじめとする大手法律事務所や準大手法律事務所の多くは企業法務を扱っており、企業内で対応できない訴訟や知的財産紛争、M&Aといった場面で法的サポートを提供しています。弁護士資格があれば、こうした企業法務系法律事務所への転職も可能です。

弁理士

特許権や実用新案権などの「知的財産」の専門家が弁理士です。弁護士と比べて一般的な認知度は低いですが、合格率6~9%の難関試験に合格しなければ弁理士になることはできません。

知財を扱う企業で働くなら評価されやすい資格

大企業やメーカーなどでは特許や商標、ライセンスなどが企業の大きな財産です。この財産を権利化し、他社の侵害から守るために知財部を置く企業が増えています。法務部と知財部が同じという企業もあるなど、知財は企業法務の一部に位置づけることができます。弁理士資格は知財を扱う企業で働くなら評価されやすい資格でしょう。

企業内弁理士として働く人は少しずつ増えている

弁理士の勤務先は主に特許事務所ですが、最近では企業内弁理士として働く人も少しずつ増えています。弁理士が企業内部で働くことで、自社の企業戦略を見据えた知的財産権の保護がスムーズに行えます。特許事務所で働く場合は歩合制が多く、努力次第で高収入が見込める一方で報酬の安定性はありません。そのため安定を求めて企業内弁理士という働き方を選ぶ弁理士も出てきています。

司法書士

不動産登記業務をはじめとして、裁判所や法務局などに提出する書類作成を代行するのが司法書士です。司法書士になるには司法書士試験に合格し、約4ヶ月にわたって開催される研修を受講したうえで司法書士として登録する必要があります。合格率は3~4%と非常に低く、司法試験に次ぐ超難関資格です。

不動産業界など一部業界の企業法務でニーズがある

司法書士は主に司法書士事務所や総合型の法律事務所で働きます。企業内司法書士という働き方はまだ一般的ではありません。しかし司法書士資格は不動産業界など一部業界の法務部ではニーズがあります。

難易度が高い割に企業法務への転職では評価が高くない

一般企業の法務部では歓迎資格として弁護士や弁理士を求めているケースがあります。中には司法書士を歓迎する企業もありますが、それほど多くはありません。資格の難易度が高いものの、企業法務への転職では評価されにくい傾向があります。

法律の知識や素養をアピールすることは可能

もっとも、司法書士資格そのものではなく、法律の知識や素養をアピールすることは可能です。応募先企業が求める人材像にマッチすれば、法務部への転職も実現できるでしょう。

行政書士

官公庁に提出する書類の作成・提出代行、遺言書や契約書の作成代行などを行うのが行政書士です。

難易度は高いが企業法務への転職では評価されにくい

行政書士の合格率は例年10%前後です。弁護士や司法書士などと比べると高いですが、1回の試験を受けるのに800~1,000時間の勉強量が必要な難しい試験です。仕事をしながら勉強に取り組む人が多い試験なので、仕事以外の時間をほぼ勉強に費やすという生活を送ることになるでしょう。

このように難易度が高い行政書士資格ですが、企業法務への転職では残念ながらあまり評価の対象にはなりません。

法律の知識や素養をアピールすることは可能

もっとも、法律の知識や素養があることのアピールにはなります。直接的な評価の対象にはならなくても、企業法務で活躍できるだけの基礎があると認められる可能性はあるでしょう。とくに企業法務では契約書レビューが代表的な業務のひとつなので、行政書士として契約書の作成やチェックなどに関わってきたのならアピールできます。

外部の専門家として企業法務に携わりたいなら価値ある士業資格

4つの士業資格は、企業からの評価を受けやすい資格とそうでない資格があります。いずれも難関資格ですが、企業法務に携わるために必ず取得するべきとはいえません。しかし、士業資格は外部の専門家として企業法務に関わるなら価値があります。各資格の事務所で働くには資格が必須なので、資格の存在意義をおおいに感じられるでしょう。

企業の法務職として士業資格を取得するべきかについては熟考を

企業法務として働いている人は、法務部や法科大学院出身など法律の素養がある人が多いでしょう。そのため、法律知識がゼロの人に比べると資格を取得できる確率は高いのかもしれません。しかし、それでも上記の士業資格を取得するのは簡単ではありませんし、費用や時間もかかります。資格によっては仕事と勉強との並行が難しく、今の仕事を捨てなければならない場合もあります。また、そこまでして士業資格を取得しても、企業法務で必ずしも評価されるわけではありません。

したがって、企業法務として士業資格を取得するべきかについては熟考が必要です。世の中には仕事をしながら司法試験に合格するような強者がいますが、地頭のよさや要領のよさ、家族や職場の理解など条件がそろっているケースが多いです。自分にはそれが可能かどうかは冷静に判断する必要があるでしょう。

【普通~易しめ】企業法務の実務に役立つ資格・検定4選

次に紹介するのは「ビジネス実務法務検定」「ビジネスコンプライアンス検定」「個人情報保護士」「知的財産管理技能士」の4つです。これらの資格・検定は企業法務の実務に役立つものが多いです。難易度は普通~易しめですが、企業法務で評価の対象になる場合もあります。そのため法務職が取得を目指すなら最も現実的な資格といえるかもしれません。

ビジネス実務法務検定試験

ビジネスで不可欠な法律知識をバランスよく習得できる検定試験です。初級レベルの3級・中級レベルの2級・上級レベルの1級があります。法務部門に限らず、その他の管理部門や営業職などあらゆる職種で役立つ実践的な法律知識を効率的に身につけることができます。
※参考:ビジネス実務法務検定試験

法務関連の資格として知名度が高い

ビジネス実務法務検定は法務関連の資格の中でも高い知名度があり、自社の能力評価制度に取り入れる企業もあります。法務部へ応募するならまず知られている資格と考えていいでしょう。

2級以上なら評価の対象になる

転職で評価の対象になるのは2級以上です。2級からの受験や2・3級の併願も可能なので、2級以上の合格を目指しましょう。2級であれば合格率は20~40%ほどあるので、法務人材が真面目に勉強すれば合格できるレベルです。なお、1級の難易度は行政書士より少し易しい程度です。企業法務への転職のために資格を取得するなら、行政書士よりもビジネス実務法務検定を取得したほうが得策かもしれません。

ビジネスコンプライアンス検定

ビジネスに欠かせないコンプライアンスに関連した知識を習得できる検定です。昨今、企業が不祥事や不正によって社会的信用を失うケースが散見されます。そのため多くの企業ではコンプライアンスの強化に取り組んでおり、法務部は主導的な立場としてコンプライアンスに関する知識を得ておく必要があります。
※参考:ビジネスコンプライアンス検定

法務なら確実に知っておくべきコンプライアンスを学べる

この検定はコンプライアンス経営の根幹となる法律知識と実践的な価値判断基準を有する人材の育成を目的としています。そのためビジネスに関わる法令の理解を通じて、法務なら確実に知っておくべきコンプライアンスを学べます。

短期間で合格できるため手始めに学ぶ検定としても最適

検定試験は初級と上級がありますが、いずれも受験者の半数は合格できる難易度です。法務人材であれば1~2ヶ月程度の短期間での合格も容易でしょう。しかし企業法務として確実に知っておくべきコンプライアンスの知識を得られるため、企業から評価されやすい試験です。転職活動と並行しながら勉強することも十分可能なので、これから企業法務への転職を考えている方にも向いています。

個人情報保護士

2005年に施行された個人情報保護法にともない設けられた民間資格です。合格率は40%前後と普通で、勉強期間の目安は2ヶ月程度です。
※参考:個人情報保護士

現代に欠かせない個人情報の管理や運用方法を学べる

個人情報の適切な管理方法と安全な運用方法を学べる認定試験です。企業が個人情報を漏洩してしまう事件が相次いでおり、個人情報の管理や適切な運用は社会的な要請が高い分野なので学ぶ価値が高いでしょう。

企業側の認知度が高まっている

認知度が高い試験なので企業法務への転職でも評価される可能性があります。ただし、団体受験をする企業も多く、難易度も高くないため、これだけで採用されるといった性質の試験ではありません。

知的財産管理技能士

知的財産を適切に管理・運用できることを証明できる国家資格です。
※参考:知的財産管理技能士

知財管理に必要なスキルを学べる

この試験では、企業が知的財産を管理するうえで必要な知識やスキルを学べます。難易度によって1級~3級の等級があり、さらに1級は専門分野によって「特許専門業務」「コンテンツ専門業務」「ブランド専門業務」の3つの分野が設けられています。

2級以上なら評価の対象になる

企業法務で評価の対象になるのは2級以上です。1級は10%前後と難易度が高めですが、2級の合格率は40%前後と普通なのでまずは2級の合格を目指すとよいでしょう。とくに知財を扱う企業で評価される可能性があります。

法務としての自己研鑽に励むなら検定試験はおすすめ

4つの資格・検定はいずれも企業の認知度が高く、士業資格と比べて難易度が低いため、法務職としての自己研鑽に励むならおすすめできます。

また、いずれは士業資格を取得したいと考えている方は、手始めに検定試験から始めてみるのも手です。仕事と勉強との両立の仕方や時間の使い方などをイメージできるでしょう。

評価に直結するかどうかは社内規程の確認を

4つの資格・検定が実際に評価されるのかは、社内規程を確認するとよいでしょう。しかし、実務に役立つ知識やスキルが学べるため、仮に評価に直結しなくても、学んでおいて損はありません。

企業法務への転職で資格はどのくらい有効なのか?

企業法務への転職を考えている方にとって、資格がどの程度評価されるのか気になる部分でしょう。資格の有効性について解説します。

法務は資格があれば採用されるわけではない

たとえば、病院が行った看護師の募集に対して看護師有資格者からの応募があれば、病院は勤務日等の条件が合えば高い確率で採用するでしょう。看護師として働くのに看護師資格が必須だからです。これに対し、企業の法務職は資格がないと就けない職種ではありませんので、何らかの資格があったからといって採用の可能性を大きく上げるのは難しいでしょう。

例外として、応募条件としてその資格が明記されている場合、その資格があることで採用される可能性はぐっとあがります。具体的には「弁護士を募集します」と明記されている場合で弁護士資格を保有しているケースが該当します。

「資格あり・業務経験なし」は厳しい

企業の法務職で重要なのは資格よりも業務経験です。基本的に法務はどの企業も少数で構成されており人材をゼロから育てる余裕がないため、難易度の高い資格を持っていても業務経験なしは厳しいでしょう。仮に最難関の弁護士資格があっても業務経験がないことで採用に難色を示す採用担当者はいると考えられます。

資格取得に取り組む姿勢は評価の対象になる

企業の法務職にとって資格は絶対的な武器になるものではありません。しかし資格取得に取り組む姿勢は評価の対象になり得るでしょう。法務職は実務を遂行するうえで日々の勉強が必要な職種だからです。

資格・検定以外にも企業法務としてレベルアップできる勉強方法はある

資格・検定の合格を目指して勉強するのは、企業法務としてレベルアップするために有効な方法です。合格という目標があることで勉強のモチベーションを維持しやすく、計画的な勉強が可能だからです。しかし、資格・検定の勉強だけが企業法務としてレベルアップする方法ではありません。以下のような行動・意識を通じても成長できます。

書籍や実務雑誌、論文を読む

法律にまつわる書籍や実務雑誌、論文は多数あります。こうした文献を読むことも立派な勉強のひとつです。受験日が決まっている資格・検定と違い、自分の都合のよい時間に学ぶことができます。通勤電車の中などスキマ時間を利用して読むのもよいでしょう。

省庁や関連団体が主催するセミナーを受講する

省庁や関連団体が定期的に開催するセミナーを受講するのも勉強になります。こうしたセミナーは、法務力の向上を目的としたものが多く、ビジネス法務に関する最新の動向や情報を得られるのがメリットです。勤務先を通じてセミナーの案内を受けることもあるので、時間が合えば積極的に受講しましょう。

実務を通じた学びを今まで以上に意識する

実務を通じた学び、すなわちOJTはやはり有効です。机上の知識ではなく、実際の業務を通じた経験こそが法務のスキルを向上させます。ポイントは何となく実務をこなすのではなく、自身の成長につながるよう意識的に取り組むことです。たとえば業務で気づいたポイントをノートに整理しておく、打ち合わせや会議には集中して取り組むなど少しの工夫で成長スピードを高められます。

法律知識だけじゃない!企業法務として磨きたいスキル・知識

企業法務として求められるスキルや知識は法律に関するものだけではありません。以下のスキルや知識も企業法務として成長するために不可欠です。

語学力

法務部門がある企業は海外支店や海外企業との取引がある企業が多く、法務にも語学力が求められます。語学力が必要な企業への転職で優位性を出すにはTOEICなら800点以上が目安となるでしょう。

ITリテラシー

ITリテラシーが欠如していることで、個人情報の漏洩や顧客情報の流出などの重大事故を招きます。たとえば会社のパソコンを持ち出す、重要データが入ったUSBを紛失するといったケースです。また、自社でITツールを導入する際には法務部門で法的な観点からリスク判断を行うことにより、企業全体が安心して体制を構築できます。こうした点からも、法務職がITリテラシーを高めておくことは重要です。

コミュニケーションスキル

企業の法務は高いコミュニケーションスキルが必要な職種です。法的な問題やリスクを経営陣や他部署へわかりやすく説明したり、対応策を提案したりといった場面が多々あります。また他部署の取り組みを「法的にアウト」と頭ごなしに批判するのではなく、部署の希望ややりたいことに寄り添う姿勢も重要でしょう。日々の業務や関係者とのやり取りを通じてコミュニケーションスキルを高めておきたいところです。

プレゼンテーションスキル、文書・資料作成力

企業法務は契約書や資料の作成、社内へのプレゼンや経営陣への報告、社外への公表等が主要業務です。そのためプレゼンや文書・資料作成力を高めることも重要です。情報を正しく整理し、わかりやすく伝えるための重要スキルなので磨いておきましょう。

自社の業界に対する知識

ほかには、自社の業界に対する知識も深めておくとよいでしょう。これにより、自社の事業でどんな法的リスクが発生し得るのか、どんな対応が適切なのかを把握できます。

まとめ

企業の法務部へ転職するのに必須の資格はありませんが、高い評価を得られる資格や実務で役立つ資格は多数あります。また、資格以外にも法務職としての価値を高める勉強方法がありますので、気になるものから取り組んでみてはいかがでしょうか。