知財業界の転職は盛んに行われています。とくに弁理士の転職は一般的で、弁理士が企業から特許事務所へ移ったり、別の特許事務所へ移ったりするのは珍しいことではありません。
そんな中、企業の知財部への転職は難しいといわれています。無資格者だけでなく、弁理士資格があっても苦戦を強いられるケースが多いため、知財部への転職を希望する方はポイントを押さえて転職活動を進める必要があります。
この記事では、知財部への転職が難しい理由を紹介したうえで、成功しやすいパターンや転職活動のポイント・コツをお伝えします。知財部への転職で必須の転職サイト・転職エージェントも厳選して紹介します。
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企業の知財部への転職が難しいといわれるのは、求人数が少なく競争が激しいこと、専門性が高い部署であることなどが理由です。以下、詳しく解説します。
まずは知財部の求人の少なさが理由です。そもそも知財部がある企業がメーカーなど知的財産を扱う企業に限られるのに加え、その人員は少数で構成されているケースが多数です。開発や営業のように多数の人員を抱えるわけではないため、求人を出すにしても1名ないし2名と少数の募集にとどまります。
少数精鋭の知財部でも従業員の退職や産休などにより欠員が出た場合は補充します。ただし、外部から採用するのではなく、開発など他部署から補充するケースが多いです。これは、既存社員のほうが自社の事業や方針に理解が深く、知財部員として教育しやすいというのがひとつの理由です。
知財部があるのは業界を代表する名だたる大企業が中心なので、求職者からの人気が高いです。
給与や待遇はもちろん、ネームバリューやダイナミックな業務内容など大企業を希望する理由は多数あります。
大企業が募集を出せば、応募者が殺到します。しかも応募者は弁理士や知財部出身者など経験豊富で優秀な人が多く、質の高いライバルたちとの激しい競争に勝たなければなりません。
事実上の終身雇用制度崩壊や成果主義、ジョブ型雇用の導入などを背景に、「転職は当たり前」といわれる時代に突入しています。
能力やスキルが高い人は転職してキャリアアップを図る時代ですが、転職回数が多いと不利になる場合もあります。
とくに知財部を置くような大企業は終身雇用の考えが根強く残るため、転職回数が多い人は敬遠されがちです。
回数の基準は明確ではありませんが、転職経験3回くらいから厳しくなってきます。中には初めての転職しか許容できないという企業もあります。
知財部は専門性が高い部署なので知財業務の経験者が優遇されます。新卒であれば知財部の採用はありますが、未経験からの転職となるとかなり厳しいと言わざるを得ません。
未経験で知財部への転職を考えている場合は、まずは自分が働いている会社の知財部への異動可能性を探ってみるのがよいでしょう。
ただし、未経験での転職可能性はバックグラウンドによっても異なります。可能性があるとすれば、理系の第二新卒で知財関連の素養がある人材です。これに当てはまる人材で知財部への転職志望度が高いのなら、チャレンジする価値はあります。
弁理士はいわずと知れた知財分野の専門家です。そのため弁理士資格があれば知財部への転職が有利になると思われがちですが、実はそうではありません。以下の理由から、弁理士であっても転職難易度は高めです。
そもそも知財部では弁理士資格をもっていない人も多数活躍しており、転職するのに弁理士資格は必須ではありません。
すでに持っているのであればアピールになりますが、知財部へ転職したいからと取得する必要性は低いです。弁理士資格は難易度が高く取得までに長い年月がかかるため、転職のタイミングを逃してしまうリスクがあります。
もちろん、特許事務所へ転職するなら弁理士資格はとても有利にはたらきます。
企業の知財部では知財関連の業務経験や知識はさることながら、組織との相性や人間性にも注目した採用が行われます。
組織との相性とはカルチャーが合うのかということです。人間性とは性格の善し悪しというよりも、組織内で協調性を保ち業務を遂行できるのか、コミュニケーション能力を発揮できるのかといった部分を指します。
コミュニケーション能力は特許事務所でも必要ですが、クライアントから話を聞き出す傾聴力や営業力など外部向けの側面が強くなります。
これに対して企業の知財部では、上司や同僚、技術部門など社内の人たちとの信頼関係を築けるのかということが重要です。
とくに特許事務所の弁理士は、事務所に所属するとはいえ個人プレイヤー的な要素が強いため、この点をクリアできずに不採用になるケースが少なくありません。
同じ知財分野でも、企業の知財部と特許事務所では業務内容や求められるスキルが異なります。
特許事務所では出願業務や権利化業務が中心ですが、知財部では特許調査や発明の発掘やライセンス交渉、特許事務所が作成した明細書のチェックなど幅広い業務を行います。
弁理士であっても知財部で活かせるスキルがなければ転職は難しくなります。
知財部への転職は難しいですが、成功しやすいパターンは存在します。以下のパターンに当てはまるなら、転職できる可能性はある程度高いと考えられます。
もっとも成功しやすいのは知財部から知財部への転職です。知財部の役割や職責、組織人としてのあり方などを理解しており、組織への適応がスムーズだと思われるからです。業務内容に共通点が多く、即戦力性が高いのも理由です。
とくに前職と近い業界への転職は成功する可能性が高いといっていいでしょう。ただし、競合他社への転職は倫理観を問われますし、前職の就業規則で禁止されている場合もあります。ポジションや業務内容などにもよりますが、転職しても問題ない先か事前に確認しておきましょう。
知財部がある企業でも、特許出願の実務は外部の特許事務所へ依頼するのが一般的です。
そのため、弁理士資格や特許事務所での経験が大きく評価されるわけではありません。ただし、一部の企業では特許出願や権利化を内製する場合があります。
内製の即戦力として期待されている場合であれば、特許事務所の弁理士が採用される可能性はぐっと上がるでしょう。
もっとも、すべての業務を自社で行う企業は一部の大企業に限られるため、難易度が高いのは変わりません。フィットする求人があればスムーズに転職できますが、そのような求人を見つけること自体が簡単ではありません。
特許事務所からの転職でも、企業の知財部と取引した経験が豊富であれば成功しやすくなります。
知財部の事情や外注で重視するポイントなどに一定の理解があり、入社後は外部の特許事務所との仲介業務にも携わってもらえるためです。
外部のリソースを活用している企業では専門家との調整も重要な業務なので活躍できる可能性が高いでしょう。
知財部の経験や弁理士資格、特許事務所での実務経験がない場合でも、その企業で扱う技術知識を有している場合にはチャンスがあります。
研究職や技術職から知財部へ転職するパターンです。未経験であることに変わりはないためほかのパターンと比べると難易度は高いですが、保有知識と応募先で扱う分野とのマッチ度が高ければ可能性があります。
大手企業は年齢を重視する傾向が強いため、若い人ほど有利に働く場合があります。若いほど固定観念がなく組織になじみやすい、教育しやすいなどの理由が中心です。
30歳くらいまでがひとつの目安となるでしょう。ただし、若ければよいというわけでもなく、理系出身者であるなど知財分野の素養は必要です。
業務経験という客観的な評価基準がないため、学歴が必要になる場合もあります。
大手企業の知財部は飽和状態にあるため転職はかなり難しいのが実情です。
一方、IT系やベンチャー企業のように成長過程にある企業ならチャンスがあります。成長戦略として知財分野に力を入れている企業も多く、大手と比べてライバルも少ないため転職の可能性が上がります。
ここからは、知財部への転職を成功させるために押さえておくべきポイントを紹介します。
やみくもに転職活動を始める前に、自分の転職市場における価値を把握しましょう。
市場価値を知ることで、今転職活動を始めて転職できるのか、転職できるとして転職先や年収はどうなのかといった見通しを立てられます。市場価値が低いのであれば、今の会社で市場価値を上げてから転職するのも選択肢に入るはずです。
スカウト型の転職サイトに登録しておくと、スカウト数や内容などから現在の市場価値をある程度推測できます。転職エージェントのキャリアカウンセリングも、市場価値の判断に役立ちます。
知財部の求人は少なく、いつ欠員募集があるか分かりません。今の仕事を辞めて転職活動に専念しても結果につながるとは限らないので、今の仕事と並行して求人を探しましょう。
スカウト型の転職サイトや転職エージェントに登録しておくと、現職を続けながらよい求人に巡り会える可能性があります。
自社の採用ページでしか募集しない企業もあるので、気になる企業があればこまめにチェックしておきましょう。
知財部への転職は行動力が求められます。ただでさえ求人が少ないので選り好みしてのんびり考えていると、あっという間に枠が埋まってしまいます。
応募を通じて企業の強みを知れたり、自分の方向性が見えたりする場合もあるので、応募可能な求人があれば積極的に応募することが大切です。
海外に展開している企業では語学力が必要です。特に知財部があるような大手企業では語学力を必要とされる機会が多いので磨いておいて損はありません。
レベルとしては英語で読み書きできればよく、TOEICなら700点以上あればよいでしょう。
弁理士資格のように何年もかけなくても、TOEICの点数を飛躍的に伸ばすことは可能なので、すぐにでも取り組むべき対策です。
大手企業は都心に本社を構えるケースが多数ですが、知財部は研究所と併設されている場合も多く、その場合は広大な敷地がある地方が勤務地になる可能性があります。
地方勤務が可能な人と難しい人とでは、前者が選ばれる可能性が高いですし、求人の選択肢の幅も広がります。
ご家族などと相談のうえ、地方で働くことになっても対応できるよう準備しておきましょう。
知財業界未経験の場合はいったん特許事務所で経験を積み、市場価値を高めてから転職するのが現実的な方法です。
ただし、特許事務所経験が長くなると組織との相性を不安視されるため、数年で濃密な経験を積み、年齢が若いうちに動き出すことも必要でしょう。転職のタイミングを逃さないことが大切です。
知財部の経験者や弁理士であれば、書類選考を通過する可能性はある程度高いですが、面接で不採用となるケースは少なくありません。知財部の面接を突破するためのポイント・コツを紹介します。
内定を勝ち取るために重要なのは、応募先が求めている人材像に自分が当てはまる、あるいはそうした人材になり得るのだと的確に伝えることです。
いくら自分の能力やスペックの高さをアピールしても、応募先が求める人材像とかけ離れていれば内定をもらえません。
当たり前のことのようですが、できていない人が意外と多くいます。どんな人材を求めているのかを正確に把握するのは簡単ではありませんが、企業研究を通じてある程度の予測を立てられます。
面接でしっかりアピールするためには、応募企業の情報収集が欠かせません。
情報収集の方法としては、企業HPで企業理念や従業員数などの基本的な情報を確認するほか、HPに掲載された先輩のインタビューなども役立ちます。
また企業の知財部の場合、応募先の知財に関するニュースがメディアで発信されている場合があるためチェックしておきましょう。
転職エージェントを利用すれば、募集背景や求める人材像などの詳細情報も提供してくれます。
志望動機は面接で必ず聞かれる質問です。説得感のある志望動機を伝えられると、志望度が高いと思われ、活躍するイメージをもってもらいやすくなります。
答え方のポイントとしては、自分の経験や知識によって、応募先でどんな貢献ができるのかを伝えることです。「自分は○○という経験があり、応募先の△△業務で活かせるため、志望しました」という流れを意識するとよいでしょう。
熱意をしっかりアピールすることも重要です。
ポテンシャル採用ならまだしも、経験者の転職で熱意という内面をアピールしても意味があるのだろうかと思われるかもしれません。
しかし熱意がなければ採用しても長く働いてもらえない可能性がありますし、困難な事が起きたときに問題解決に導く努力ができない可能性があります。
企業は知財部で長く活躍してもらうことを望んでいるため、熱意があるかどうかは非常に大切なのです。熱意をアピールするには、企業研究をしっかり行うこと、その際疑問に感じたことは面接中に積極的に質問することなどが大切になります。
難しい知財部への転職を成功させるには、転職サイトや転職エージェントを利用することも重要です。使い方のポイントとおすすめの転職サイト・エージェントを紹介します。
特許事務所で働いていて忙しく、転職活動に割ける時間が限られるという方も多いでしょう。
転職エージェントを利用すれば、求人探しや先方との日程調整を代わりに行ってくれるため、時間的な余裕がなくてもスムーズに転職活動を進められます。また応募書類の添削や面接対策、詳細の情報提供もしてくれるため、転職の可能性を高められます。
知財部は大手企業が中心なので、転職エージェントも大手企業とコネクションがある大手エージェントで求人を多く扱っています。
ただし、大手エージェントは幅広い業種を扱っているため、業界事情などに精通していないケースが多いです。専門性の高い特化型エージェントも組み合わせることでキャリアプランの相談や情報収集に厚みが出ます。
企業の知財部への転職は難易度が高いのが実情ですが、応募先が求める人材像を把握し、熱意と志望動機をしっかり伝えることで成功の可能性を高められます。
まずは市場価値を把握し、転職エージェントのアドバイスを受けながら長期的な視点で転職活動を進めましょう。