経理は転職しやすい職種といわれる場合があります。どんな業界・企業でも経理は不可欠な職種であり、スキルの汎用性が高く業界を横断しても経験を活かしやすいためです。
ただし、コロナ禍以降に強まった厳選採用の傾向やAI・RPAの発展などさまざまな要因から、実務経験さえあれば簡単に転職できるわけではなくなってきました。この記事では、経理の転職をテーマに、最新の転職事情を踏まえながら転職を成功させるポイントを解説します。
最初に、経理求人の状況や転職事情について解説します。
経理はどの業界・企業でも必要とされる職種なので、求人は通年あります。
ただし、年明けの1月~2月は求人が増加しやすくなります。日本に多い3月決算の企業では4月~5月が経理の繁忙期にあたります。
事業年度終了月 |
法人数 |
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事業年度年1回 |
2月 |
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3月 |
543,709 |
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4月 |
195,243 |
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5月 |
216,449 |
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6月 |
252,265 |
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7月 |
202,806 |
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8月 |
238,234 |
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9月 |
290,587 |
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10月 |
114,052 |
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11月 |
70,919 |
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12月 |
245,664 |
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1月 |
94,398 |
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計 |
2,641,307 |
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事業年度年2回以上 |
2・8月 |
3,105 |
3・9月 |
6,859 |
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4・10月 |
2,931 |
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5・11月 |
3,411 |
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6・12月 |
7,011 |
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7・1月 |
3,065 |
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計 |
26,382 |
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合計 |
2,667,689 |
その2~3ヶ月前に求人を出す企業が多いため、この時期に求人を探すと選択肢の幅も広がるでしょう。
経理の求人は中小企業とベンチャー企業が多く、大手企業の求人はあまり市場に出回りません。
経理は専門的な知識と実務経験が必要な職種ですが、直接利益をあげないバックオフィス人材であるがゆえに資金力に乏しい中小企業では好待遇で迎えるのは難しく、優秀な経理人材がなかなか集まりません。
そのため中小企業では経理の人手不足が深刻化しています。またベンチャー企業では、IPOに向けて経理をはじめとする管理部門の体制構築・強化を図る企業を中心に求人があります。
一方、大手企業はもともと辞める人が少ないうえにコロナ禍で人材の安定志向が強まっていることもあり、欠員募集が出にくい状況です。
欠員が出ても異動等で補充するケースが多く、経理人材を外部から採用するケースも多くありません。求人を見つけること自体が難しいでしょう。
新型コロナウイルス感染拡大により一時期採用控えをする企業が増えましたが、影響は限定的で現在の経理求人は回復しています。
ただし、厳選採用の傾向は強まっています。経理はコロナ禍前も経験者を優遇する傾向にありましたが、コロナ禍以降は経験者というだけでなく、「よりよい人材を獲得したい」と考える企業が増えています。
経理の求人自体は通年あるものの、募集背景は人員補充が多くを占めます。したがって、募集枠は1枠ないし2枠とかなり少ないです。
経理は人気職なので、少ない枠に応募者が殺到し、ほかの応募者たちとの競争になります。経験者とはいえ採用を勝ち取るのは簡単ではありません。
年代で見ると、企業が採用を強化しているのは30代の人材です。
理由として、この世代はリーマンショックを契機とした就職難により、層が薄い世代であることが挙げられます。組織構造のゆがみを整えたい企業が30代の人材をターゲットにしている場合があります。
また、30代は即戦力性が高くマネジメント経験者も増えることから、企業としては安心して採用しやすい世代であるともいえるでしょう。
40代になると求人数が減り転職は厳しさを増しますが、実務経験に加えてマネジメント経験がある人材であればその限りではありません。
マネジメントの経験や成果を整理し、応募書類や面接で的確にアピールすることで採用の可能性が高まります。
もっとも、必ずしもマネジメント経験が必要なわけではなく、連結決算など応募先が求める高い専門スキルを持った人材であれば40代にもチャンスがあります。
経理業務の効率化の手段として、AIやRPAを導入する企業も増えつつあります。
このような新しい時代の経理は、実務経験さえあれば引く手あまたとはいかなくなっています。実務経験はもちろん必要ですが、+αの要素が求められます。
経理は仕訳作業や報告書への転記といった定型業務が多くありますが、こうした業務は単純作業と位置づけられており、ニーズが減っています。
RPAによる自動化が進んだことや、業務効率化をサポートするITサービスやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が浸透していることなどが理由です。
国内財務/経理BPOサービス市場の2021年の前年比成長率は4.2%でした。COVID-19の感染拡大にも後押しされて、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環としての高度なBPOサービスや、グローバルに統合された包括的なBPOサービスの需要が拡大しています。2022年以降もこの傾向は続き、他の領域に比べれば成長率は低めではあるものの、予測期間を通じて安定してプラス成長を維持するとIDCでは予測しています。
引用元:国内BPOサービス市場予測を発表|IDC
経理は会社のお金を扱うことから、採用担当者は実務経験以外にも人間性や仕事への姿勢を重視します。
「実直である」「秘密を守る」「責任感がある」など信頼に足る人物であるのかは面接でしっかりと見られています。
また経理はさまざまな部署との連携が必要な職種でもあるので、周囲とコミュニケーションを取り、協力して業務を遂行できる人物であることも重要です。AI時代だからこそ、AIにはない人間性や仕事への姿勢をもつ人材が求められています。
企業のグローバル化は近年ますます加速しており、経理職にも語学力を求めるケースが増えています。
単純に語学ができることをアピールするのではなく、語学×税務など、専門スキルと掛け合わせてアピールすることで評価が高まるでしょう。
IFRS(国際会計基準)の導入に関する経理業務が増えています。語学力に加えてIFRSの知識をもつ人材はニーズが高いため、よい条件で転職できる可能性があります。
各企業ではデジタル化にともなう会計システムの入れ替えなどが発生しており、ITに強い経理職のニーズが高まっています。
また経理に業務効率化や生産性向上を求める企業が多いため、ITスキルを駆使してスピーディーに業務をこなせる人材は評価が高いです。
ITスキルがあることで、ITシステムを全社に導入する際のプロジェクトに関わるなど、業務の幅を広げることにもつながります。
経理職はどの業界でも不可欠なので、転職では業界を横断しやすいというメリットがあります。業界を選ぶ際の考え方を確認しましょう。
業界横断が可能とはいえ、深く考えずに業界を選択するのはおすすめできません。
あちこちの業界に手当たり次第応募すると転職の軸がずれ、自分が転職で実現したいことが不明瞭になってしまいます。
また、応募先に「ほかに応募している業界はありますか?」と聞かれる場合もあるので、的確に答えられないと「軸がない人」と判断されてしまい採用に至らない可能性があります。
業界を横断しても簿記の基本的な考え方は共通していますが、業界によって業務内容に違いがあります。
たとえば製造業なら原価計算、小売り業界なら棚卸しや仕入管理などが含まれるため、業界を変えると業界特有の業務にとまどう場面も出てきます。
そのため、もっとも転職が成功しやすいのは同じ業界です。即戦力としてすぐに活躍できるため採用のハードルはぐっと下がるでしょう。
これまでとは違う業界でチャレンジしたいのなら、将来性に期待できる業界を選ぶのがよいでしょう。経理は基本的にひとつの会社で長く勤める人が多いので、長い目で見て将来性のある業界を選ぶことも必要です。
代表的なのはIT業界と医療業界です。社会的なニーズが高く、今後も必要とされる業界なので将来性に期待できるでしょう。管理部門を強化する動きも見られているため求人も豊富にあります。
業界を変える場合は、業界を変える理由をしっかり説明できるようにしておきましょう。
採用側としても、転職が成功しやすい同業界ではなく、なぜあえて業界を変えるのかが気になる部分です。単なる憧れだけで応募していないのか、業界への理解度はあるのか等をチェックしています。
経理としての転職を成功させるには、以下のポイントを意識して転職活動に臨みましょう。
まずは志望動機を明確にしましょう。転職の方向性を定めるためにも、採用してもらうためにも志望動機は非常に重要な要素です。
採用側は、応募者がなぜその会社を選んだのかを確認するために志望動機の内容をしっかりとチェックしています。当然、その理由に説得力がなければ採用に至ることはありません。
次に、自分の強みと自分には何ができるのかを整理することが大切です。これにより応募先選びにブレが生じません。できることとできないことをわかっていれば、能力以上の企業に転職してスキル不足で戸惑うこともありません。
また、採用側が知りたいのは「応募者は何ができる人で、自社にどんな貢献をしてくれるのか」ということです。自分の強みを把握し、できることを説明できれば、説得力のあるアピールにつながります。強みの把握には経験・スキルの棚卸しが必要です。
気になる求人が見つかったら、応募先が求めている人材像を把握します。先に整理した自分の強みと照らしあわせることで、自分の経験を活かせる応募先を選ぶことができます。
応募先が求めている経験・スキルを中心にアピールすることで、採用側に自社での活躍イメージを抱いてもらいやすくなります。また、経理としてどのような経営課題に対してどんな施策を行ったのか、どんな成果を出したのかを具体的に伝えることが大切です。
応募先が求めている人材像を把握したり、自分の経験を活かせる求人を探したりするには、精度の高い情報を得ることが重要です。情報収集は転職を成功させるための要といっても過言ではありません。
応募先の情報を自分ひとりで集めるには、時間的にも精度という点からも限界があります。
転職エージェントであれば独自の情報網があり、応募先へ直接足を運ぶなどして精度の高い情報をもっています。最新の転職事情にも詳しいため、活用しない手はありません。
最後に、経理の転職活動で気をつけたい点を紹介します。
業務内容と業務範囲は転職前に確認しておきましょう。どんな経験を積めるのかは、その後のキャリアパスに関わってくる重要な問題です。
経理の基本的な業務内容は業界や企業が変わっても共通する部分が多いですが、企業によって何をどこまでやってもらうのかは大きく異なります。
自分が思っていた経験をできなかったなど業務のミスマッチが生じるケースも多々あるので、具体的な業務内容と範囲の確認は必須です。
大手企業の経理と中小企業の経理では業務内容と範囲が違います。一般に大手は分業化が進んでいるため狭い業務範囲を担当し、中小企業はひとりで幅広い業務を行います。
大手の場合は業務範囲が狭い分専門性を高めやすいといえますが、幅広い経験は積みにくい傾向があります。
一方、中小企業では幅広い業務経験を積めるものの、大手企業で使うような専門性の高い業務経験は積みにくいです。
また経理業務以外も担当することがあり、「経理なのにこんな業務までやらされた」と不満に感じてしまうケースも少なくありません。
こうした事情から、基本的に同じ規模感の企業へ転職するほうがなじみやすく、成功しやすいといえます。
社風のチェックも重要です。採用側は自社の社風に合っている人材かどうかを面接で見極めようとします。経験値が高くても社風に合わないと判断されると内定を得るのは難しいでしょう。
また経理はオフィス内での作業が1日の大半を占めるため、仮に転職できても自分に合わない社風だと居心地が悪くなってしまいます。特に現在の人間関係に不満があって転職する場合は社風をよく確認しておきましょう。
経理に関連する資格は業務に直結しやすいものが多いので、資格を取ることも有益です。
ただし、「先に資格を取得してから転職活動を始めよう」と考えると、転職のタイミングやよい求人を逃してしまいます。
資格の勉強をするなら転職活動と並行して行えばよく、応募先には勉強中であることをアピールすることもできます。
また、公認会計士や税理士など特に難易度の高い資格については、「転職で有利になるから」といった理由で取得を目指すのはおすすめしません。
明確な目標がないままに片手間で勉強して合格できる資格ではないので、貴重な時間を無駄に費やしてしまう可能性があります。資格を目指す理由と取得後のキャリアを明確にしたうえで計画的に取り組むようにしましょう。
経理は実務経験が重視される職種なので、経験者は転職しやすいといわれてきました。
しかし近年は企業を取り巻く環境が激しく変化しており、経理も時代のニーズに合った人材が求められています。転職活動も戦略的に行う必要性が高まっているため、転職市場の状況に詳しい転職エージェントに相談しながら進めましょう。